大判例

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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)62号 判決

東京都大田区東糀谷3丁目8番8号

原告

株式会社トーショー

代表者代表取締役

大村司郎

訴訟代理人弁理士

中島昇

仁木弘明

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

松木禎夫

中村友之

井上元廣

涌井幸一

主文

特許庁が、昭和63年審判第19317号事件について、平成5年4月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告(旧商号・株式会社東京商会)は、昭和60年5月30日、名称を「散剤分包機」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭60-115421号)が、昭和63年8月18日拒絶査定を受けたので、同年11月10日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第19317号事件として審理したうえ、平成5年4月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月6日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

散剤フィーダと、前記散剤フィーダから散剤を供給される散剤処理装置とを具えた散剤分包機において、前記散剤処理装置に散剤を供給する少なくとも1個の補助散剤フィーダと、制御装置とを設け、前記制御装置は、前記散剤フィーダおよび前記補助散剤フィーダをそれらに投入される散剤の投入順序にしたがって逐次作動モードまたは一括作動モードで作動させるようにしたことを特徴とする散剤分包機。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前の他の実用新案登録出願であって、本願出願後に公開された実願昭59-120564号(実開昭61-35102号)のマイクロフィルム(以下「引用例」といい、その考案を「引用例考案」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案と同一であると認められるので、特許法29条の2第1項の規定により、特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例の記載内容は認めるが、本願発明と引用例考案の一致点は争う。

審決は、本願発明における散剤フィーダ及び補助散剤フィーダの制御装置の構成と、引用例考案における薬剤供給シュート及び補助シュートの制御装置の構成が同一であると誤認し(取消事由1)、また、本願発明における散剤フィーダ及び補助散剤フィーダの配置構成と、引用例考案における薬剤供給シュート及び補助シュートの配置構成が同一であると誤認し(取消事由2)、その結果誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(制御装置の構成についての誤認)

審決は、引用例考案の制御装置には、本願発明の「散剤フィーダと補助散剤フィーダに投入される散剤の投入順序にしたがって散剤フィーダと補助散剤フィーダを作動させる制御装置」の構成が示されておらず、また、単なる設計事項として包括されているものとも認められないにもかかわらず、本願発明と引用例考案とが実質的に同一であると誤認したものである。

(1)  本願発明の制御装置は、特許請求の範囲に記載されたとおり、散剤フィーダと補助散剤フィーダに投入される散剤の投入順序にしたがって散剤フィーダと補助散剤フィーダを逐次作動モード又は一括作動モードで作動させるようにしたものである。

したがって、このことから、本願発明の制御装置は、「散剤フィーダと補助散剤フィーダに投入される散剤の投入順序を検知する構成」と、「検知した情報に従い、散剤フィーダと補助散剤フィーダを逐次作動モード又は一括作動モードで作動させる構成」という二つの構成から成るものである。

なお、ここで、「逐次作動モード」とは、本願明細書に記載されている(甲第2号証明細書6頁9~13行)とおり、散剤フィーダに散剤が存在している状態で補助散剤フィーダに散剤が投入されたときに、散剤フィーダの作動が終了したら引き続いて補助散剤フィーダを作動させるというフィーダの作動のさせ方をいい、この「逐次作動モード」によって、散剤を分包するための各区画室等に、散剤フィーダからの散剤か補助散剤フィーダからの散剤かのいずれか一方の散剤しか配分されないという状態を作り出すことができる。他方、「一括作動モード」とは、本願明細書に記載されている(同6頁13~19行)とおり、散剤フィーダに散剤が存在していない状態で補助散剤フィーダに散剤が投入され、続いて散剤フィーダに散剤が投入されたときに、散剤フィーダと補助散剤フィーダとを一括して作動させるというフィーダの作動のさせ方をいい、この「一括作動モード」によって、各区画室等に、散剤フィーダからの散剤と補助散剤フィーダからの散剤がともに層状になって配分されるという状態を作り出すことができる。

審決は、本願発明における「逐次作動モード」を「フィーダへの薬剤投入の自動化」(審決書10頁9行)ないし「同一種薬剤の供給自動化」(同10頁14~15行)を行うものとし、「一括作動モード」を「二種以上の薬剤を混和するモード」(同9頁11行)ないし「複数種薬剤の混和をする」(同10頁12~13行)ものとしているが、「逐次作動モード」及び「一活作動モード」は、それぞれ前記したようなフィーダの作動のさせ方をいうものと解すべきであって、審決のような漠然としたことを意味するものと解すべきではない。

(2)  これに対し、引用例考案は、引用例の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり、「一方向に回転駆動される円形分配体の外周部に開閉蓋を有する多数の分割マスを環状に形成し、その円形分配体上にホッパ部を有する薬剤供給シュートを配置して先端の出口を分割マス上に臨まし、上記分配体の回転時に、薬剤供給シュートに微振動を付与してホッパ部に投入された薬剤をシュート先端から下方の分割マス内に落下供給するようにした回転分配装置における薬剤の供給装置において、ホッパ部を備え、微振動が付与される補助シュートを配置し、その補助シュートの先端の出口を前記薬剤供給シュートの先端部上方に臨ませたことを特徴とする回転分配装置における薬剤の供給装置」である。

審決は、「引用例の技術も、他からの入力に基づき、結果として出力装置たるフィーダ等の起動・停止しているから、散剤フィーダを制御する装置が内含されていると解される」(審決書9頁5~9行)とし、被告は、引用例考案の加振器(シュート支持台に微振動を付与する電磁石等の加振器)は、回転テーブルの回転に関連して作動され、供給シュート段部のセンサの作動と関連して設定時間後に停止するように制御されているから、薬剤供給シュートに起動及び停止を制御する装置を具備しているということができ、したがって、引用例考案には、散剤フィーダを制御する装置が含まれていると解される旨主張する。

しかし、引用例考案の加振器がそのように制御されているとしても、それはあくまでも回転テーブルの回転やセンサの作動と関連してのみ行われる制御であって、その技術内容からみて、加振器の作動は、テーブルひいては薬剤供給シュートが正転方向及び逆転方向に回転している間に薬剤の供給ができるように行われていれば足りるのであって、それ以上の薬剤供給シュート及び補助シュートの起動・停止等の機能についての記載ないし示唆は何もない。

まして、引用例考案に、フィーダへの散剤の投入順序に従った各フィーダの制御を行う装置が含まれているとは到底解することができない。

(3)  以上のとおり、引用例考案の制御装置には、本願発明の「散剤フィーダと補助散剤フィーダに投入される散剤の投入順序にしたがって散剤フィーダと補助散剤フィーダを作動させる制御装置」という構成が示されていない。

審決は、「引用例の技術は、本願発明に所謂『一括作動モード』を包括している」(審決書9頁12~13行)と認定しているが、引用例のどこにも、両フィーダに投入される投入順序に従って、一括して散剤が投入されるという「一括作動モード」で作動させる制御装置についての記載はない。

さらに、審決は、「引用例に記載の技術も、散剤フィーダと補助散剤フィーダと制御装置とを具えるものであるところ、その複数種薬剤の混和をする一括作動モードを行ない得るという技術の外延のうちに、同一種薬剤の供給自動化という制御も、単なる設計事項として、包括の限りと言うべきである」(同10頁10~16行)と判断しているが、複数のフィーダの駆動を単独にあるいは順次に行わせることのみを示した引用例考案から、散剤の各フィーダへの特定された投入順序に従ってモードを選択してフィーダを作動させる技術が単なる設計事項として採用できるはずはないから、審決の上記判断は誤りである。

2  取消事由2(フィーダ、シュートの配置構成についての誤認)

(1)  本願発明においては、散剤フィーダと補助散剤フィーダとは平面でみて離れて並置されるように構成され、散剤フィーダによる散剤の供給と補助散剤フィーダによる散剤の供給は、それぞれのフィーダにより格別に行われるようになっている。本願発明において、上記のようにそれぞれが格別に独立して散剤を散剤処理装置に供給する構成は、それぞれのフィーダに投入された散剤が供給途中において混和させられることなく、散剤処理装置の各区画室に直接配分されるという作用ないし効果を奏するところの構成であるということができる。

そして、本願発明において、混和作業をなくすようにしたのは、従来、ホッパ内で散剤を混和する場合には、「散剤の中には混和しにくかったり、混和しても電磁フィーダにかけると分離してしまうものがあり、このような散剤を取扱う場合には均等配分がきわめて困難である等の問題点があった」(甲第2号証明細書4頁1~5行)からである。

(2)  これに対し、引用例考案の薬剤の供給装置は、その薬剤供給シュートと補助シュートによれば、ホッパ部から補助シュートの先端部まで移動してきた薬剤は、薬剤供給シュートの先端部において、薬剤供給シュートを滑り移動してきた薬剤と混合し、その混合直後において、薬剤供給シュートの先端から順次排出されるので、各分割マスには、薬剤供給シュートからの薬剤と補助シュートからの薬剤とが混在して配分されることになる。

このような、二種類の薬剤が薬剤供給シュート上で混合されることを示す引用例考案は、散剤の混和を無くするという本願発明とは、むしろ逆の発想によるものである。

(3)  以上のとおり、本願発明、引用例考案におけるフィーダ、シュートの配置構成及びこれに伴う作用効果が異なることは明らかであるから、審決が、引用例記載の「薬剤供給シュート」及び「補助シュート」は、その呼称の技術概念及び機能からみて、本願発明における「散剤フィーダ」及び「補助散剤フィーダ」に相当すると認定したのは誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  本願発明の制御装置について、本願発明の要旨には、「前記制御装置は、前記散剤フィーダおよび前記補助散剤フィーダをそれらに投入される散剤の投入順序にしたがって逐次作動モードまたは一括作動モードで作動させるようにした」と示されているのみである。

本願明細書の発明の詳細な説明の項においても、散剤フィーダ及び補助散剤フィーダのそれぞれのトラフのホッパ真下位置とノズル部分に、散剤が投入されて存在することを検知するセンサ8A・8B、9A・9Bと、さらに散剤を投入可能であるかどうかを表示する表示器10A・10B、及び両フィーダの作動モードが逐次作動モードであるか一括作動モードであるかを表示する表示器11A・11Bを具えているとの説明はされているが、散剤フィーダ及び補助散剤フィーダに投入される散剤の投入順序を検知する構成はもちろんのこと、検知した情報に従い各フィーダを作動させる構成については、なんら記載されていない。

また、作動モードについても、「逐次作動モード」が、散剤フィーダの作動が終了したあとに引き続いて補助散剤フィーダを作動させるモードであり、「一括作動モード」が散剤フィーダと補助散剤フィーダの両散剤フィーダを一括して作動させるモードであると解されるだけであって、「それらに投入される散剤の投入順序にしたがって」の意味を、原告が主張するように、「散剤フィーダに散剤が存在している状態で補助散剤フィーダに散剤が投入されたときに」や「散剤フィーダに散剤が存在していない状態で補助散剤フィーダに散剤が投入され、続いて散剤フィーダに散剤が投入されたときに」と限定して解釈すべき特段の事情は何もない。原告の主張するところは、それぞれの作動モードの一実施例あるいは実施態様にすぎず、本願発明の要旨に基づくものとはいえない。

(2)  引用例考案においては、薬剤供給シュートは、加振器の作動によって微振動が付与されるものであり、この加振器は、回転テーブルの回転に関連して作動され、供給シュート段部のセンサの作動と関連して設定時間後に停止するように制御されているから、引用例考案は、薬剤供給シュートの起動及び停止を制御する装置を具備しているといえる。

ところで、本願発明における電磁フィーダ式の散剤フィーダと同様のバイブレータによる粉粒体フィーダ等において、複数の粉粒体フィーダを設けて、これらの駆動(すなわち起動及び停止等)を単独に、同時にあるいは順次に行わせるようにすることは、本願出願以前に周知の技術である。

そして、引用例には、本願発明にいう逐次作動モードに関する事項は明記されていないが、薬剤供給シュート(本願発明の散剤フィーダに相当する。)と補助シュート(本願発明の補助散剤フィーダに相当する。)にそれぞれ異なる薬剤を投入して、制御装置を介して供給装置を作動させることによって、本願発明にいう一括作動モードで作動させることができ、また、薬剤供給シュートと補助シュートのいずれかに薬剤を投入して作動させ、その後に、先に投入した薬剤と同種の薬剤を他方のシュートに投入させることによって、本願発明にいう逐次作動モードに類似した状態で供給分配させることができるものであり、さらに、その一態様として、一方のシュートからの供給、配分が終了する直前に他方のシュートに先に投入した薬剤と同種又は異種の薬剤を投入するようにすれば、まさしく本願発明にいう逐次作動モードに対応した状態で供給分配させることができるものである。

(3)  以上によれば、引用例考案において、薬剤供給シュートと補助シュートに投入される薬剤の投入順序に従って逐次作動モード又は一括作動モードで作動させるようにすることは、当業者が適宜なしうる単なる設計的事項にすぎない程度のものである。

よって、審決の認定に誤りはない。

2  取消事由2について

(1)  本願発明の要旨には、散剤フィーダと補助散剤フィーダとの位置関係については何ら特定されていない。また、散剤フィーダに投入された散剤が補助散剤フィーダの散剤とは供給途中において混和させることなく単独で直接各区画室の配分されるような構成についても何ら記載されていない。

そして、散剤フィーダ及び補助散剤フィーダに関しては、それ自体で明瞭なところであり、発明の詳細な説明や図面を参酌して解釈すべき特段の理由もない。

したがって、本願発明における「散剤フィーダ」及び「補助散剤フィーダ」を、原告主張のように「散剤フィーダと補助散剤フィーダは、それぞれに投入された散剤を供給途中において混和させることなく各区画室に直接配分できるように、平面でみて離れて並置されるよう構成されたもの」と限定的に解すべき理由はない。

(2)  引用例考案の薬剤の供給装置は、その薬剤供給シュートと補助シュートによれば、分配体の各分割マスには、薬剤供給シュートからの薬剤と補助シュートからの薬剤とが混在して配分されることになるが、引用例考案においても、その機能からみて薬剤供給シュートが本願発明の散剤フィーダに相当することは明らかであり、また、補助シュートは、薬剤供給シュートの先端部を介してではあるが、薬剤を分配体の各分割マスへ供給するものであって、その機能において、本願発明の補助散剤フィーダと異なるものではない。

(3)  以上のとおりであるから、審決が、引用例記載の「薬剤供給シュート」及び「補助シュート」が、その呼称の技術概念及び機能からみて、本願発明における「散剤フィーダ」及び「補助散剤フィーダ」に相当するとした点に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(制御装置の構成についての誤認)について

(1)  本願発明の要旨に、本願発明の制御装置につき、「前記制御装置は、前記散剤フィーダおよび前記補助散剤フィーダをそれらに投入される散剤の投入順序にしたがって逐次作動モードまたは一括作動モードで作動させるようにした」と示されていることは当事者間に争いがない。

この要旨の示すところによれば、本願発明の制御装置は、散剤の投与が先ず散剤フィーダになされ、次いで補助散剤フィーダになされたという投入順序の場合には、「逐次作動モード」を選択し、これと逆に、散剤の投与が先ず補助散剤フィーダになされ、次いで散剤フィーダになされたという投入順序の場合には、「一括作動モード」を選択し、これにより選択したいずれかの「作動モードで作動させる」ように制御する構成を備えた装置であると解される。

ここでいう「逐次作動モード」とは、その字義からして、散剤フィーダと補助散剤フィーダを逐次作動させる作動モード、すなわち、散剤フィーダの作動終了後に補助散剤フィーダの作動を開始する作動モードを意味し、「一括作動モード」とは、その字義どおり、両フィーダを一括して作動させる作動モードを意味すると解することができる。

そして、このように作動モードを選択し、選択した作動モードで作動させる制御装置であるためには、制御装置という性質上、散剤フィーダと補助散剤フィーダに投入される散剤の投入順序を検知する手段と、検知した情報に従い、作動モードを選択し、散剤フィーダと補助散剤フィーダを逐次作動モード又は一括作動モードで作動させる手段、を備えなければならないことは、自明のことと認められる。

本願明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明には、これらの構成及び手段の具体的な一つの実施例につき、図面に示されたところに基づいて、次のように説明されていることが認められ、これによれば、本願発明の要旨に示された制御装置の構成が上記のものであることは、明らかといわなければならない。

「7はトラフ6Aのホッパ真下位置とノズル部分とに設置されて散剤フィーダ4Aに散剤が投入されて存在していることを検知する適宜のセンサ8A、9Aと、トラフ6Bのホッパ真下位置とノズル部分とに設置されて補助散剤フィーダ4Bに散剤が投入されて存在していることを検知する同様のセンサ8B、9Bとを具えた制御装置であって、制御装置7は、散剤フィーダ4Aに散剤が存在している状態で補助散剤フィーダ4Bに散剤が投入されたときは、逐次作動モード、すなわち散剤フィーダ4Aの作動が終了したら引続いて補助散剤フィーダ4Bを作動させ、また散剤フィーダ4Aに散剤が存在していない状態で補助散剤フィーダ4Bに散剤が投入されたときは、一括作動モード、すなわち続いて散剤フィーダ4Aに散剤が投入されるのを待って両フィーダ4A、4Bを一括して作動させるようになっている。」(同号証明細書6頁2~19行)

「また制御装置7は、センサ8Aが散剤の投入を検知してから散剤フィーダ4Aが作動してセンサ9Aが散剤を検知しなくなるまでの間(すなわち散剤フィーダ4Aに散剤が投入されて存在している期間)点灯し、それ以外は消灯してそれにより散剤フィーダ4Aに散剤を投入可能であるかどうかを表示する表示器(LED)10Aと、補助散剤フィーダ4Bについての同様の表示器10Bと、両フィーダ4A、4Bの作動モードが逐次作動モードであるか一括作動モードであるか等を表示するたとえば7セグメントLEDからなる表示器11A、11Bとを具えている。」(同6頁19行~7頁10行)

被告は、本願発明の制御装置の具体的な構成、さらに制御装置の各センサと他の構成要素との関連については何ら具体的に記載がないし、散剤の投入順序を検知する構成については何らの記載もない旨主張するが、上記発明の詳細な説明の項における説明により基礎づけられている本願発明の要旨によれば、本願発明の制御装置が前示構成を有することは明らかというべきであるから、被告の主張は採用することができない。

(2)  引用例(甲第3号証)には、引用例考案の制御装置について、審決認定のとおり、

〈1〉 「この供給装置を用いて二種類の薬剤を分割マス11に供給するには、それぞれのホッパ部35および38に秤量された薬剤を投入し、それより分配体駆動用モータ9を作動して円形分配体1を一方向に回転し、かつテーブル駆動用モータ19を作動してテーブル16に弾性支持された回転台23を設定角度正転し、かつ所要の角度逆転し、そのテーブル16の回転時に加振器30を作動してシュート支持台29に微振動を付与する。」(審決書5頁末行~6頁8行)

〈2〉 「上記の薬剤供給シュート33は、一方向に回転する分割マス11上を正転方向に設定角度回転し、かつ所要の角度逆転し、その回転時に薬剤供給シュート33の先端から混合薬剤が連続して落下するため、所要数の分割マス11内の定量の混合薬剤が供給されることになり、薬剤供給シュート33の段部36に取付けたセンサ37が作動すると、設定時間後にテーブル駆動用モータ19および加振器30が停止し、薬剤の供給が完了する。」(同6頁10~19行)

〈3〉 「以上のように、この考案によれば、薬剤供給シュートおよび補助シュートのそれぞれに沿って薬剤を滑り移動せしめ、補助シュートの薬剤の薬剤供給シュートの先端部に落下させて混合し、その混合薬剤を薬剤供給シュートの先端から下方の分割マス内に落下させるようにしたので、粒子径の異なる二種類の薬剤の供給において、両薬剤の割合を一定として分割マス内に定量供給することができる」(同7頁5~13行)

ことが記載されていることは、当事者間に争いがない。

審決は、上記記載に基づき、「引用例の技術も、他からの入力に基づき、結果として出力装置たるフィーダ等の起動・停止しているから、散剤フィーダを制御する装置が内含されていると解される」(同9頁5~9行)とし、さらに、引用例には、「二種以上の薬剤を混和するモードが、示されているから、引用例の技術は、本願発明に所謂『一括作動モード』を包括している」(同9頁11~13行)と認定している。この点について、被告は、引用例考案の加振器は、回転テーブルの回転に関連して作動され、供給シュート段部のセンサの作動と関連して設定時間後に停止するように制御されているから、薬剤供給シュートに起動及び停止を制御する装置を具備しているということができ、したがって、引用例考案の技術には、散剤フィーダを制御する装置が含まれていると解される旨主張する。

しかし、引用例考案の加振器がそのように制御されているとしても、上記〈1〉及び〈2〉の記載から明らかなように、それはあくまでも回転テーブルの回転やセンサの作動と関連してのみ行われる制御であるし、また、上記〈3〉の記載から明らかなように、引用例考案は、粒子径の異なる二種類の薬剤の供給において、両薬剤の割合を一定として分割マス内に定量供給することを技術的課題とするものであるから、引用例考案は、複数のフィーダ(薬剤供給シュート及び補助シュート)を同時に作動させて薬剤を混和させるモードのみを示しているにすぎず、引用例の全記載を検討しても、引用例考案の制御装置が、フィーダへの散剤の投入順序に従って各フィーダの制御を行う構成を開示しているとは、到底解することができない。

被告は、本願発明における電磁フィーダ式の散剤フィーダと同様のバイブレータによる粉粒体フィーダ等において、複数の粉粒体フィーダを設けて、これらの駆動(すなわち起動及び停止等)を単独に、同時にあるいは順次に行わせるようにすることは、本願出願以前に周知の技術であり、これを引用例考案に採用することは単なる設計事項であると主張する。

しかし、複数のフィーダの駆動を単独に、同時にあるいは順次に行わせることのみを示した周知の技術から、本願発明の制御装置のような、散剤フィーダ及び補助散剤フィーダへの「散剤の投入順序にしたがって」、逐次作動モード又は一括作動モードというモードを選択して、その選択した「モードで作動させる」という構成が単なる設計事項として採用できる程度のものとは認められないから、被告の主張は理由がない。

さらに、審決は、「引用例に記載の技術も、散剤フィーダと補助散剤フィーダと制御装置とを具えるものであるところ、その複数種薬剤の混和をする一括作動モードを行ない得るという技術の外延のうちに、同一種薬剤の供給自動化という制御も、単なる設計事項として、包括の限りと言うべきである」(同10頁10~16行)と判断している。

ここにいう「技術の外延のうちに・・・包括の限りと言うべきである」との表現自体、趣旨も根拠も不明確といわざるをえないが、その点をさておくとしても、複数のフィーダを同時に作動させて薬剤を混和させるモードのみを示したにすぎない引用例考案の技術の外延を考慮してみても、散剤の投入順序に従って、各フィーダの作動モードを選択し、選択した作動モードで作動させる技術が単なる設計事項として採用できる程度のものでないことは、上記説示のとおりである。

したがって、引用例には、本願発明の「前記散剤フィーダおよび前記補助散剤フィーダをそれらに投入される散剤の投入順序にしたがって逐次作動モードまたは一括作動モードで作動させるようにした」制御装置の構成が開示もしくは示唆されているということはできない。

(3)  そうである以上、本願発明における散剤フィーダ及び補助散剤フィーダの制御装置の構成と、引用例考案における薬剤供給シュート及び補助シュートの制御装置の構成が同一であるとした審決の認定は誤りであり、これを前提に、本願発明は引用例考案と同一であるとした審決の判断は誤りというほかはないから、審決は違法として取消しを免れない。

2  よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

昭和63年審判第19317号

審決

東京都大田区東糀谷3丁目8番8号

請求人 株式会社 東京商会

昭和60年特許願第115421号「散剤分包機」拒絶査定に対する審判事件(昭和61年12月3日出願公開、特開昭61-273301)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1.本願は、昭和60年5月30日の出願であって、その発明(以下、「本願発明」という。)の要旨は、昭和62年5月29日付手続補正書により補正された明細書及び出願当初の願書に添付した図面の記載に徴し、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。

「散剤フィーダと、前記散剤フィーダから散剤を供給される散剤処理装置とを具えた散剤分包機において、前記散剤処理装置に散剤を供給する少なくとも1個の補助散剤フィーダと、制御装置とを設け、前記制御装置は、前記散剤フィーダおよび前記補助散剤フィーダをそれらに投入される散剤の投入順序にしたがって逐次作動モードまたは一括作動モードで作動させるようにしたことを特徴とする散剤分包機。」

2.これに対して、原査定の拒絶の理由とされた「実願昭59-120564号(実開昭61-35102号)のマイクロフィルム」(以下、「引用例」という。)には、

(イ)「図示のように、円形分配体1は、中央部に支持筒部2を備え、その支持筒部2の外周面上下にフランジ3、4が設けられ、上部フランジ3の外周に接触するローラ5と、下部フランジ4を挟む上下一対のローラ6とによって上記円配体1が回転可能に支持されている。

また、支持筒部2の外周下部にはギヤ板7が取付けられ、そのギヤ板7の外周の歯8に分配体駆動用モータ9の出力軸に取付けたビニオン10が噛合している。

上記円形分配体1の外周部には多数の分割マス11が環状に設けられ、各分割マス11の下部開口に設けた開閉蓋12はビン13を中心として回動可能になり、その開閉蓋12を引き上げるスプリング14によって開閉蓋12は全閉状態に保持される。

前記支持筒部2の下方にはテーブル支持筒15が配置され、そのテーブル支持筒15に円形テーブル16の下面に設けた支持軸17が回動可能に支持されている。円形テーブル16の外周面には環状ギヤ18が形成され、一方テーブル支持筒15にはテーブル駆動用モータ19が取付けられ、そのモータ19の出力軸に取付けた駆動ギャ20と上記環状ギヤ18との間にエンドレスのタイミングベルト21がかけ渡されている。

ここで、テーブル駆動用モータ19は、適宜の入力信号に基づいてテーブル16を正逆転せしめ、その正転時にはテーブル16を設定角度回転し、逆転時には上記の正転角度からその間において回転する前記円形分配体1の回転角度を減算した角度だけテーブル16を逆転させるようになっている。

前記テーブル16には複数のスプリング22を介して回転台23が弾性支持されている。この回転台23は、前記支持筒部2を挟む上下に配置された円板24、25を備え、下部円板25には複数のスプリング26を介して加振器支持台27が弾性支持され、その支持台27に平行に配置した弾性板28を介してシュト支持台29が支持されている。また、加振器支持台27にはシュート支持台29に微振動を付与する電磁石等の加振器30が取付けられている。

前記シュート支持台29の上面には二本のシュート支持軸31、31が起立し、各シュート支持軸31は上部円板24に形成した透孔32を挿通して上部円板24上に突出し、その突出端部のそれぞれに薬剤供給シュート33と補助シュート

34とが取付けられている。

上記薬剤供給シュート33は後端にホッパ部35を備え、先端は円形分配体1の分割マス11上に臨んでいる。また、薬剤供給シュート34の先端部には、段部36が設けられ、その段部36に薬剤の有無を検出するセンサ37が取付けられている。

一方、補助シュート34は、後端にホッパ部38を備え、先端は薬剤供給シュート33の段部36上方に臨んでいる。

実施例で示す薬剤供給装置は上記の構造から成り、この供給装置を用いて二種類の薬剤を分割マス11に供給するには、それぞれのホッパ部35および38に秤量された薬剤を投入し、それより分配体駆動用モータ9を作動して円形分配体1を一方向に回転し、かつテーブル駆動用モータ19を作動してテーブル16に弾性支持された回転台23を設定角度正転し、かつ所要の角度逆転し、そのテーブル16の回転時に加振器30を作動してシュート支持台29に微振動を付与する。」

(明細書第4頁第8行目乃至第7頁第13行目)

(ロ) 「上記の薬剤供給シュート33は、一方向に回転する分割マス11上を正転方向に設定角度回転し、かつ所要の角度逆転し、その回転時に薬剤供給シュート33の先端から混合薬剤が連続して落下するため、所要数の分割マス11内の定量の混合薬剤が供給されることになり、薬剤供給シュート33の段部36に取付けたセンサ37が作動すると、設定時間後にテーブル駆動用モータ19および加振器30が停止し、薬剤の供給が完了する。

なお、分割マス11内に供給された混合薬剤は、下部の開閉蓋12の開放によって所定位置から落下排出されて包装シートにより分包されるようになっている。」

(明細書第8頁第4乃至第16行目)

(ハ) 「以上のように、この考案によれば、薬剤供給シュートおよび補助シュートのそれぞれに沿って薬剤を滑り移動せしめ、補助シュートの薬剤の薬剤供給シュートの先端部に落下させて混合し、その混合薬剤を薬剤供給シュートの先端から下方の分割マス内に落下させるようにしたので、粒子径の異なる二種類の薬剤の供給において、両薬剤の割合を一定として分割マス内る定量供給することができる。」

(明細書第9頁第6行目乃至第14行目)

(ニ) この考案に係る供給装置の一実施例を示す縦断正面図たる「第1図」及びその平面図である「第2図」、

が、それぞれ、記載されている。

3.本願発明と引用例に記載ささた技術事項とを対比してみると、引用例に記載の「薬剤供給シュート33」、「分配体1」、「薬剤供給装置」及び「補助シュート34」は、その呼称の技術概念及び機能からみて、本願発明における「薬剤フィーダ」、「薬剤処理装置」、「薬剤分包機」、「薬剤分包機」及び「補助薬剤フィーダ」に、それぞれ、相当している。

また、「その正転時にはテーブル16を設定角度回転し、逆転時には上記の正転角度からその間において回転する前記円形分配体1の回転角度を減算した角度だけテーブル16を逆転させる」〔前掲2.(イ)〕、

「分配体駆動用モータ9を作動して円形分配体1を一方向に回転し、かつテーブル駆動用モータ19を作動してテーブル16に弾性支持された回転台23を設定角度正転し、かつ所要の角度逆転し、そのテーブル16の回転時に加振器30を作動してシュート支持台29に微振動を付与する。」〔同じく、前掲2.(イ)〕及び、

「所要数の分割マス11内に定量の混合薬剤が供給されることになり、薬剤供給シュート33の段部36に取付けたセンサ37が作動すると、設定時間後にテーブル駆動用モータ19および加振器30が停止し、薬剤の供給が完了する。」〔前掲2.(ロ)〕

の各記載に見られるとおり、引用例の技術も、他からの入力に基づき、結果として出力装置たるフィーダ等の起動・停止しているから、散剤フィーダを制御する装置が内含されていると解される。

さらに、引用例の前掲2.(ハ)の記載事項から、二種以上の薬剤を混和するモードが、示されているから、引用例の技術は、本願発明に所謂「一括作動モード」を包括している。

従って、引用例には、本願発明の択一的要件の後段部(一括作動モード)を包括する構成要件である、

「散剤フィーダと、前記散剤フィーダから散剤を供給される散剤処理装置とを具えた散剤分包機において、前記散剤処理装置に散剤を供給する少なくとも1個の補助散剤フィーダと、制御装置とを設け、前記制御装置は、前記散剤フィーダおよび前記補助散剤フィーダをそれらに投入される散剤の投入順序にしたがって一括作動モードで作動させるようにしたことを特徴とする散剤分包機。」

が、記載されていると捉えられる。

ところで、引用例には、本願発明が、択一的構成要件としてその前段に挙げている所謂「逐次作動モード」即ち、フィーダへの薬剤投入の自動化については、明記はされていないが、引用例に記載の技術も、散剤フィーダと補助散剤フィーダと制御装置とを具えるものであるところ、その複数種薬剤の混和をする一括作動モードを行ない得るという技術の外延のうちに、同一種薬剤の供給自動化という制御も、単なる設計事項として、包括の限りと言うべきである。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された考案と、実質的に、同一であると言わざるを得ない。

4.引用例は、この出願前である、昭和59年8月3日の出願に係り、本願の出願後である昭和61年3月4日に公開されたものであり、引用例の係る出願考案者は、本願発明の発明者と同一の者ではなく、さらに、本願発明者と引用例に係る出願の出願人とは同一の者でないことは、明らかである。

以上のとおり、本願発明は、この出願前の他の実用新案登録出願であって、本願出願後に公開されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案と同一であると認められるので、特許法第29条の2第1項の規定により、本願発明につき、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年4月1日

審判長 特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

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